杞憂
昔、中国に杞という国があった。そこに「成」という商人がいた。成は幼い頃から一人であれこれ考えることが好きな人であった。
ある日、ふと、成は今にも天が落ちてきて、この国が滅んでしまうのではないかと考えるようになった。その日からというもの、成は寝食を忘れて、天が落ちてくることを憂い、仕事も手につかなくなってしまった。成の友人たちはその様子を見て、心配し、成の家を訪ねた。
その日は晴れていた。
「成よ、お前は最近様子がおかしいぞ、そんなに痩せ細ってしまって、具合もとても悪そうだ。一体何があったのだ。」
成は答えた。
「嗚呼、友よ、私は今にも天が落ちてきて、この国が滅び、私の身の置き所が無くなってしまうことを心配しているのだ。そのために、夜は寝られず、朝も昼も夜も何も食べることが出来ないのだ。」
友人たちは成があまりにも真剣な顔でそのようなことを言うので、大きな声を出して笑いあった。
そこでこのように言った。
「成よ、私は今まで天が落ちてきたなどという話を聞いたこともないぞ。そんなことは殷の時代にも、夏の時代にも、三皇五帝の時代だって、一度足りとも起きていない。余計な心配をするのは時間の無駄だぞ。」
成は言った。
「友よ、お前は三皇五帝の時代に、夏の時代に、殷の時代に生きていたのか?それにもしも、既に天が落ちているのなら、我々は今生きてはいないだろう。天はこれから落ちるのだ。だから私は寝食を忘れ、憂いているのだ。」
他の友人たちも成を納得させようと試みたが、成は考えを改める事は無かった。
遂に、友人たちは諦めて帰ることにした。
「成よ、お前の好きにするがいい。しかし、そのままだとお前は死んでしまうぞ。」
友人たちが帰る時には、いつの間にか、激しく雨が降り始めていた。
成は外の様子を眺め、こう思った。
「何だかいつもとは違う雨だ。ほら見ろ、今にも天が落ちてくるぞ。こうしては居られない。どこかへ逃げなくては。」
その日の夜のうちに成は家財をまとめて、杞の国から出ていった。
すると、次の日、まだ夜が明けない頃、突然、隣国の軍が杞に攻め込んできた。杞は滅んだ。成の友人たちは皆殺されてしまった。
五百五十年戦乱が続く、春秋戦国時代の始まりであった。
拙い文章を読んで頂いてありがとうございました。恥ずかしいけど完全オリジナル小説(ショートショート的な?)です。
いかがでしたか?
内容とか、書き方とか、まだまだですけど、書くこと好きだからもう少し色々お話を書いて、上手くなっていければと思っています。